今回の事件で、もしオズワルドの死と言う事態が発生しなかったら、裁判はダラスの地で行われるハズである。(例によって何らかの干渉が無ければ)そうすると当然、検事には、ダラス地方検事のヘンリー・ウエードが担当する事になったはずである。ウエード検事は事件直後から地方検事としてさまざまな場面でオズワルドの単独犯行の証拠を発表している。当然これらの発言が、裁判における根拠となって公判を維持するはずであったと思われる。ここではヘンリー・ウエード検事の挙げる様々な証拠を検討して、オズワルドを弁護してみたい。したがって、反論は裁判技法による反論となる。 1 多数の人間が倉庫ビルの6階の窓にオズワルドがいたのを目撃している。
1に対する反論オズワルドは6階の窓から発砲したとされているので、そこで目撃されたと言う、この主張は重要である。検事は次ぎのように言う。「まず第一にオズワルド本人が銃を持ってビルの6階に居たのを目撃した人が大勢居る。皆、決まったひとつの窓を指して、オズワルドはあそこから外を覗いていたと話している。」その後”大勢の目撃者”は実は一人しか居ない事が明らかになった。その目撃者は「あれが誰っであったかのかは解らない。でも、もし似た人をもう一度見たら、あんな人だったと指し示す事はできると思う。」と述べている。この程度の身元確認では、せいぜい推量としか言えず、このままでは、裁判の証拠としては、許されないであろう。 2に対する反論掌紋は指紋と違って、必ずしもある人物を特定する証拠にはならない。それでも、容疑者のものである掌紋が、凶器の上に残っていれば、それは重要な証拠と考えねばならないであろう。しかし、問題のライフルが実際にオズワルドの物であれば、彼の掌紋が存在するのは当然で、それをもって彼が大統領を狙撃したと決め付ける事は出来ない。 3に対する反論この点に関してウエードは、次のように述べている。「被告が腰をかけていたこの箱の表面から掌紋が発見され、それが彼のものである事が確認された。」。前項のように掌紋は、その特徴の判読可能性にばらつきがあり、必ずしも厳密な意味での人物特定には使えない事を考慮すれば、「確認された」と断言する事は難しい。 4に対する反論この反論には注釈が必要になる、日本人は銃に関する知識は一般的ではない。一生、銃に触れずに終わる人が大部分である。しかし、兵役のあるアメリカ人は違う、ほとんど全員が銃に関する知識はもっている。さて、英語には、日本語の”鉄砲”と言う言葉のニュアンスを持った言葉はない、短銃はガン又はピストルであり、ライフルはライフル、散弾銃はショットガンである。軍隊でもこの区別ははっきりしており、いい間違えは処罰の対象となる。この事を念頭においていただきたい。 銃を発射するとガスが放出される。パラフィンテストは、そのガスがかかりそうな身体の部分にパラフィンを塗布して、ガスに含まれる焼けた硝酸塩の粒子を検出するものであるが、ガンを撃ったかどうかを調べる時は両手を調べる、ライフルを撃ったかどうか調べる時は両手と顔面の左右の頬骨の周りも調べる。ライフルの引き金をひく時には、頬をライフルにつけるような姿勢になるからである。ここに、ウエード検事の記者会見の席での発言がある。 ウエード検事のガン発言記者 パラフィンテストの結果は? ウエードがガンといったのは、実は正確なのであるが。これでは舌足らずな答えの見本のようなものである。オズワルドの顔についてもテストが行われ、そこには火薬の痕跡は認められなかった。という事実をウエードは述べていないのである。とにかく、ここで次のような事実が明確になった、”テストによって、オズワルドは、近い過去にわたってライフルを撃っていない可能性が極めて高い。”のである。それとも、検事は昔のテレビ映画”ザ・ライフルマン”のように、腰だめで撃ったとでもいうのであろうか。(チョット古いかな?)この事実一つをとっても、陪審員は無罪の表決をだすことは間違いない。 5に対する反論ウエード検事は「すでにご存知のことと思うが、それ(ライフル)は、オズワルドがこの3月、ヒデルと言う偽名を使って通信販売業者から購入し、ここダラスの郵便私書箱に郵送されたものであると確認された。」と述べ、それが大統領殺害に使われたと断定した。しかし、ウエードはこの発言の僅かまえに凶器に関してはまったく異なる発表をしている。 6に対する反論「オズワルドは、札入れを所持していて、その中に私書箱の名義と同じ名前の身分証明書が入っていた。」とウエードは言っている。逮捕当日の各種会見の席ではこの事実は一切触れていない、ところが、ヒデルの名前でライフルを購入したと判明した翌日になってはじめて、前日オズワルドが逮捕された時、彼がヒデルの身分証明書を所持していたことを公表したのである。警察や地方検事は、オズワルドの政治的背景まで発表しながら、なぜ、すぐに見つかったはずのもう一つの偽名の事は言わなかったのか不思議である。逮捕後ただちに所持品検査が実施された事ははまちがいない、身体的特徴の記載がオズワルドのものと一致し名前だけが異なる身分証明書があれば、それが偽名として使われていることは即座にわかるはずである。ダラス警察はなぜ、ライフル購入の事実が判明した後になって、ヒデルの身分証明書を見つけたのであろう? 7に対する反論ウエードは次のように述べる。「暗殺直後、一人の警官がビルに駆け込み、部屋の隅にいたこの男を逮捕しようとしたが、ビルの責任者は、この男はここの従業員で怪しい物ではないと言った。教科書倉庫会社の従業員は、この被告以外は全員所在が確認された。警察は男の名前と特徴を公表し、彼を捜すように手配した。」 8に対する反論「彼の妻は、前の晩にはガンがあったのに、その朝、彼が出かけた後には見当たらなかった、と言った。」とウエードは言っている。しかし、オズワルド夫人が彼の言うような意味にとれる発言をしたという記録はない。夫人はせいぜい、ライフルと思われる毛布に包まれた何かを見た。と言ったとされているだけである。しかしこの発言もまったく不正確であった事が明白となった。オズワルド夫人は、夫がライフルを所有している事をまったく知らなかった。と述べている事が、後になって明らかになった。仮に、オズワルド夫人が、夫は確かにライフルを持っており、それが金曜の朝には見当たらなかった、と本当に供述していたとしても、このような親族の証言は証拠として採用されることはない。にもかかわらず、ダラスの検察は将来陪審員としてオズワルド裁判の席に座る可能性のある全てのダラス市民に向けて発表した。このような行為は、法の条文・精神に反し、被告の権利を侵害するものである。 9に対する反論「オズワルドは、金曜に帰宅した際、小脇に包みを抱えており、彼は確か、それがカーテンかブラインドだと言っていた。」この件に関しては、オズワルドの証言を聞く以外に方法はないが、検察官はその包みに関するどのような証拠から、中身が凶器のライフルであったという、結論を引き出したのか、彼は明らかにしていない。 10に対する反論犯行の現場から逃走中のオズワルドが、なぜ、公衆の前で暗殺について冗談を言ったりしたのであろうか。なぜオズワルドは「大声で笑った。」のであろうか。このような態度は身柄拘束中の48時間、一貫して犯行を否認したことと矛盾する。バスの中で笑ったという話しは、あまりにありそうもないので、FBIは記事にしないことを条件とした非公式の記者会見で、これは虚偽であることを認めている。 11に対する反論ウエードは「彼は、バス停で降りた後ダリル・クリックのタクシーをつかまえた。その正確な場所は定かでないが、そのタクシーでオーク・クリフの自宅に帰り、急いで着替えをして、家を出た。」と述べる。オズワルドらしき人物を乗せたタクシーの運転手はウイリアム・ホウェリーと言う名前の人物であった事が後になって判明している。ところが、彼の運行記録によると、オズワルドらしき人物を乗せた時刻を、12時30分と記録している。犯行は12時31分である。 12に対する反論検察官は「オズワルドは、車にちかずいてきた。チピット巡査は車を降り、車を回って助手席側にいこうとした。するとオズワルドは三発発射して、巡査を殺した。」この容疑事実は大統領暗殺とは、直接関係はないがいくつかの興味深い問題点がある事は、このページでもお分かりいただけたと思う。オズワルドは当初警察官殺人容疑で告発されたいたのである。この告発は大統領殺害の捜査が進められている最中に行われた。ウエードは警察官殺害事件は完全に片が付き、すべての証拠はオズワルドが巡査を射殺したことを示している。と11月22日の夜に発表している。巡査殺害事件が完全に片が付いたのであれば、検事は事実関係について、確証を持っているはずである。にもかかわらず2日後の11月24日の彼の発言は、かなり奇妙である。 記者 チピットが殺された場所は、下宿屋の前だったのか? 13に対する反論この主張には、いささか矛盾があった、最初の発表ではこの映画館の料金係が、オズワルドがびくびくしながら次々と席を変わるので不審に思い通報した、となっていた。しかし、すぐに切符売り場の係りが管内の客の様子を見るのは無理と判断したのか、料金係が案内係に変わった。最終的には劇場の外に居た人物が切符を買わずに入場した人物を見て、料金係に通報した、それを聞いて料金係が警察に通報した、と言う風に二転三転している。しかしこの切符を買わずに入場した人物がいるとの通報で、大統領暗殺犯人を血眼になって捜している警察が、パトロールカー12台も派遣するであろうか。 14に対する反論検察官はオズワルドが、映画館で逮捕された時逮捕しようとした警察官を撃とうとしたということを強調している。しかし実際には銃弾は発射されていない。彼の説明を聞こう「彼は、警官を殴り、頭に銃をつきつけ撃った。しかし、銃弾は発射されなかった。我々の手元にはその撃たれた銃弾がある。警官たちがその時点でオズワルドを逮捕した。彼の銃は不発だった、すなわち火薬は起爆しなかった。薬莢には撃針による傷がついているが、起爆はしなかった。」撃針が作動し薬莢に傷をつけた事を請け負っているので、引き金がひかれた事に疑問の余地はない。さらに、部下が「撃たれた銃弾」を持っていることも請け負った。しかし、逮捕したマクドナルド巡査は、異なった説明をしている。「私は、彼の銃の握りのところを掴んだ、引き金にかかった彼の手の動きを感じる事ができた。そこで私は手に力を入れ、引き金の作動を遅らせる事ができた。空は引き金をひくことができなかった。」つまり、引き金はひかれなかったのである。ということは、ウエードの言う物的証拠、警官を殺そうとした際に撃針で傷がついた銃弾は存在しない事になる。 15に対する反論ウエードの記者会見は11月24日におこなわれている。その翌日ウエードは次のように発表している。「検察当局は、オズワルドが借りていた部屋から大統領のパレードコースに印のついた地図も発見していた、これはパレードのルートに印をつけたもので、教科書倉庫ビルとの間には、直線が引かれている。その他暗殺可能な場所と思われる場所二個所にも印がつけられていた。」これは重大な証拠である、犯罪の意思を示す被告自筆の文書である。もしこんな証拠が前日の記者会見で、オズワルドの単独犯行の証拠を一点一点提示していた時に持っていたとしたら、彼がこの地図の存在に言及しなかったと言う事は、信じる事が出来ない。オズワルドは、三日前に逮捕されているのである、逮捕当日、警察はオズワルドの部屋から所持品の全てを搬出し、調査している。いったい、いつこの地図が発見されたのであろうか。検事は「・・・地図も発見していた。」と言っている。 |