2001年1月25日一通のメールが届きました。元幹部自衛官でいらっしゃた「ヨシオ伊藤」さんからのメールでした。しかも、競技スポーツとして「ライフル銃」に長年親しんでいらっしゃったとの事。兵役のない日本人にとって。銃火器に関する知識はほとんど無いに等しいのが一般的です。戦後生まれの人々にとって、一生銃火器に触れずに一生を終わる人々がほとんどではないでしょうか。幸い、小生は趣味として散弾銃を使っていますが、同じ銃器でも「ライフル銃」は別格なのです、ライフル銃を手にするには、銃器(ここでは散弾銃)の所持経験が三年以上ないと所持できないことになっています。これは法律できめられております。そのためライフル銃を操作した事のある方と言うのは日本人にとっては極めて少数の限られた人々なのです。しかも軍人(失礼、日本では自衛官でしたね)であり、かつライフルに親しんでいる方のお話を聞けると言う事で、失礼を省みず小生の疑問としていた事をお聞きする事にいたしました。伊藤さんは、そんな無礼をお叱りにならず、ご丁重なお返事を頂戴いたしました、そこで小生と伊藤さんとのやりとりを、伊藤さんのご了解を得た上で一項目としてアップいたします。
ヨシオ伊藤氏よりのメール
突然のメールの失礼、お詫びいたします。私はインターネットを最近始めたので色々なご無礼があるかも知れませんがお許しください。
前田さんのJFKのホームページを見て感銘を受けました。きっかけは知人からJFK暗殺の件に付いて教えてくれと頼まれたからです。流し読みをしたので細部まではしっかりと読んではいないのですが・・・ふと思った事がありましたのでメール致します。 私は元幹部自衛官で、競技射撃をやっていました。軍隊と射撃に付いて少しばかりの知識があります。 疑問の始まりは狙撃手からでした。標的や、動物を撃つのと人を撃つのでは全く異なります。プロの暗殺者と言うのは多数いますが、ライフルを用いた長距離狙撃は特殊な技術を要し、ほとんどが軍人か特殊な警察関係者です(当時はほとんどが軍関係者)。ですので、複数の狙撃者は訓練を受けた軍人それも現役のだと思ったのです。 ライフル射撃でCCB(冷えた、きれいな、銃身)で初弾を命中させるのはかなりの技量が必要で、それも人間かつ大統領です。実戦経験のある狙撃手でしょう。私は現役時代200M先の卵を打ち抜く自信はありましたが、初弾を人に命中させる自信はありません。ガクビキしてしまいます。例え軍の狙撃手でもターゲットは敵では無く最高指揮官大統領です。狙撃手達の心に迷いは無かったのでしょうか?少しでも心の迷いがあれば例え最高級の狙撃銃を用いても、弾はそれてしまいます。人を殺すと言う最大のタブーを生業とする軍人達に必要なのは武器ではありません。国の為、国民の為、家族の為であると言う大義名分なのです。・・・・中略・・・・・
なぜ暗殺?情報組織がスキャンダルを握っている、そして民主主義国家。ケネディの政策に反対するなら、スキャンダルを流す事で政治的に抹殺する事のほうが簡単では無いでしょうか?女性問題、マフィアとの繋がり・・・スキャンダルを流さずなぜ暗殺したのか? もし、私が狙撃手で自分の最高指揮官暗殺を指示された。その理由として。現在の状況はキューバ、ベトナムなどの問題を抱え国家は危機的状況である。最高指揮官の解任は現状では時間的なロスと混乱を生じる、よって暗殺とする。ことの重要性より本件は最高機密とする。 私は軍人として、迷いも無く狙撃し秘密を墓場まで持っていくと思います。
ヨシオ伊藤氏への質問
その前に、実際の教科書倉庫ビルでの状況を説明しておく必要があります。銃器に関する1963年11月22日の状況は以下の通りでした。事件後一丁のライフル銃が教科書倉庫ビル6階の北西の角、階段付近で発見されました。当初発見した警察官はこの銃を「モーゼル」と視認したのですが、後になって「マリンカ・カルカノ」と発表されました。その銃には残弾はありませんでしたし連射用のマガジン(弾倉)は装着されていませんでした。また、発射済みの空薬莢が同じ6階の東南の角の「暗殺者の巣」と呼ばれる所より整然と並んだ状況で三個発見されました。その他銃器の部品などは一切発見されておりません。その結果「ウオーレン委員会」は、犯人オズワルドはカルカノ銃によって三発の銃弾を発射し大統領を死に至らしめたと結論しました。
これらの状況をもとに私は伊藤氏にたいして以下のようなご質問をさせて頂いたのです。
拝復
貴重なご指摘誠にありがとうございました。実は、いつかきっと何らかの手段で「ライフル」に関しての実践的な経験をお持ちの方と巡り合える事を期待いたしておりました。と申しますのも、ライフルに関して熟知していらっしゃる方でないと答られないであろう疑問が小生のなかには以前よりあったのです。たかだか、一通のメールを頂戴しただけでお伺いする失礼を十分にわきまえた上で、失礼を省みずメールいたしました。お許し下さい。
・・・・・中略・・・・・
犯行に使用されたと言われるマリンカ・カルカーノ銃の件です。この銃は「ボルトアクション」の銃なのですが、単発式の銃ではないのでしょうか?素人考えですが、ボルトアクションのライフルで連射する為には弾丸を装填したカセット?みたいなものが必要ではないのでしょうか?逆の見方からすると、このカルカーノ銃は、カセット?無しで最大何発まで(連射用に)装填できるのでしょうか?
そのカセット?無しで装填可能な銃弾の数がたとえば3発程度の少数であった場合、犯行者の心理としてより多くの予備弾を撃てるような状況にしておく(すなわち、カセットを装填しておく)のが心理ではないかと思うのです。じつは、この予備弾用のカセットの存在に着目している研究者は数多くいますが、現在までこのカセットが存在したと言う証拠はございません。
当然アメリカの研究者達は何らかの結論には達しているのでしょうが銃とは無縁の日本人にとってはなかなか糾明する事が難しい分野であります。小生もライフル協会にメールで質問したことがあるのですが質問のしかたが悪かったのか、いまだ回答がありません・・・・もし、伊藤様に知識がございましたならば、小生の疑問を解いて頂ければ幸いです。
参考までにウオーレン委員会で使用した「カルカーノ銃」の証拠写真を添付いたしました。勝手な質問をさせて頂き恐縮ですが何とぞ宜しくお願いいたします。
JFKクラブ 前田幸一
伊藤氏のお返事
私自身は狙撃手ではありませんでした。(前田注釈:軍隊における専門職としての、と言う意味でしょう)多くの日本人と比べ少しだけ、軍隊と射撃に詳しいだけです。 ライフル狙撃に興味があるのでしたら、「狙撃手」(原書房:ピーターブルックスミス著)をお勧めいたします。私の知識などこの程度ですから。さて、本題のカルカーノ銃の事ですが。残念ながら、私は「イタリアの安物」と聞いた事しか無く写真も過去に数回見ただけです。正確な詳細は分かりません。多分、ライフル協会にも資料が無かったのでしょう。その程度のライフルですから。
カセットについて
前田さんの言われるカセットはマガジン(弾倉)と呼ばれるものです。映画などで長い箱形の物を付けていますがあれは20発から40発の連射をするためです。 カルカーノ銃の写真を見ると構造は内蔵式箱形弾倉と言われる、銃に直接上部から(スコープの下)、弾を装填するのでは無いかと思われます。単発では無いでしょう。例え、外付けの弾倉が無くても第二次大戦当時のライフルや猟銃は銃本体に弾倉が内蔵されているのです。 私の手元にあるライフル銃の資料にある、第二次大戦中のものを紹介すると。
スプリングフィールドM1903(アメリカ製)装弾数5発 ボルトアクション
モシン・ナガンM1891(ロシア製)装弾数5発 ボルトアクション
38式歩兵銃(日本)装弾数5発 ボルトアクション
K98K(ドイツ)装弾数5発 ボルトアクション
多くのライフルが5発です。
カルカーノ銃はモシン・ナガンに形が似ています。銃口が右向きの写真を見て下さい。引き金の前部、下の大きさ参考のスケールの水色と緑色の上の部分。弾が入る箱の様な物が銃に一体化しているでしょう。これが内蔵式箱形弾倉と言われる物だと思います。 弾薬の大きさで装弾数は変わるのですが多分、カルカーノは4〜5発装弾出来ると思います。
犯行者の心理でより多くの弾を持つのでは
実は、別に不思議な事では無いのです。狩猟と異なり狙撃は初弾必中を大切にします。銃を発射した時点で自分の存在を敵に知られる訳です。その上、何発も撃っていると敵に自分の正確な位置を知られてしまいます。一発だけ発射したなら狙撃手がいるとしか分かりません。 ですから、JFK暗殺の状況ではライフルはあくまで大統領狙撃のみ、自衛手段に拳銃を持ってもいいが逆に身体検査で不審人物と暴露するようなものですからあえて護身用武器(サイドアーム)を持たないほうが楽に逃走できると考えるのが普通でしょう。
ではなぜ5連発の銃に3発しか装弾していなかったのか?
こんな疑問を持たれるでしょう。しかし、この疑問も高度に訓練された兵士に取って常識なのです。弾倉に最大装填すると言うことはスプリングに負担をかけるので装弾不良を起こしやすく成るのです。弾が撃てなければ銃は意味をなしません。ですから、1〜2発少な目に装弾しておくのです。 玩具の銀玉鉄砲を撃った事はありませんか?あの銀玉鉄砲にギュウギュウに弾を詰めると弾が絡まって出なくなってしまうことあったと思います。あれと同じ理屈です。
最後にJFK暗殺事件の後、アメリカ海兵隊がボルトアクションの銃で連射を訓練したそうです。私が聞いた話によると、かなり練習すると自動装填銃(オートマチックライフル:自動小銃)を使うより早く正確に撃てる様に成るらしいです。 しかし、オズワルドが単独でカルカーノ銃を使ってJFKを狙撃したと言うのはやはり信じられません。あれだけの腕を持った狙撃手がカルカーノ銃など使うはずはありません。映画JFKであった様に、複数の狙撃手が狙撃したと考えるのが論理的です。
以上が伊藤氏とのメールのやりとりの一部です。
見えてきたもの
素人の私が疑問に思っていた事を、伊藤氏はいともたやすく解説してくださいました。なるほど、なるほどの連続でした。そして新たな疑問が湧き起こったのです。往復書簡をお読みになった諸兄もお気ずきの事とは思いますが、伊藤氏のお返事にある文章を読んでみると、すべて軍人、もしくは銃の取り扱いに熟達した方の常識的な部分が多いと言う事です。我々のようにライフル銃に触れた事もなく、ましてや教育を受けたこともない連中にとっては、この文章を一読しただけで「犯人は射撃のプロである」との結論に達してしまうでしょう。しかし、アメリカ国民には「兵役」があります、したがって日本人が想像する国民像とは違います、オズワルドもれっきとした海兵隊員でした、ライフルの教育も受けた事は確実です。問題は伊藤氏のご教示下さった、射撃のプロとしての常識が、「兵役を終えたアメリカ国民の常識なのか?」の一点に絞られます。このことは実際に兵役を経験された方でないと答えられる事ではないでしょう。私はこのメールのやり取りのなかで「200M先の卵を打ち抜く自信のある」方が「自分には出来ない」とおっしゃっている部分が、真実にもっとも近いのではと思っています。大統領の姿を照準器に捕らえた人物は「プロ」以外にはありえないと・・・・そして、一人では不可能である事も。
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